How to Make a Book With Steidl

How to Make a Book With Steidl

Steidl Book Award Japan 2016を受賞し2020年にようやく出版されたものの、コロナ禍によってイベント等は開かれず、いまのところサインの練習も役立ってない中、オフセット印刷の勉強をいくらかしたのでHow to Make a Book With Steidlの印刷技術についてすこし書こうと思います。

・基本情報
 印刷機はマンローランドのROLAND700で(ドイツ製のオフセット印刷機の2大メーカーのひとつで、日本ではもうひとつのハイデルベルグのほうが多い。ともに精度もお値段も高い)、UV印刷(従来の油性印刷はインキの乾燥に時間がかかるがUVはランプをあてると瞬時に硬化する)。 ハイブリットスクリーン(たぶん)。
 紙はドイツ製のKamiko Shira 坪量240g/m2 厚さ実測0.34mm 非塗工紙つまり上質紙と聞いています。

・刷りだし
シュタイデル社から持ち帰った紙を元に語りますが、あくまでも私の推測の域をでないし、オフセット印刷はその構造上、印刷が安定するまでに一定の枚数が必要で、それを含めて試し刷りをして捨てて、その捨ててある紙を素人が適当に持ってきたものを前提にしてるのであしからず。
シュタイデル社が他の印刷会社と決定的に違うことのひとつに、本機校正を何度もやることがあげられると思います。たった、45ユーロで2000部の写真集に、最低でも7回、おそらくもっと多くやっている。写真集の制作に関わったことがある方や、印刷通販で見積りをとったことがある方なら、わかってもらえるのではないでしょうか、このリッチさが。特に私の写真集はシルバー多数、特色多数で贅沢なものだと思います。こういうことがさっとできてしまうのが一流のアーティストたちに信頼されているんだと思います(納期無茶苦茶にも関わらず)。もしくはシュタイデルさんのアトリエなのかもしれません。Cのブランド店の前を通る際、心の中でお世話になっておりますといっています。

モノクロ写真なのに5色刷りになっています。1と3は同じブラックの2回刷りで、6は若干違うブラック。4、5は特色のベタ。25倍のルーペで網点をみるとブラックと5のグレーしか確認できなくて、ダブルトーンじゃないの?ってなるんですが、 凸版印刷『グラフィックトライアル』(グラフィック社)のモノクロ・シルバー7色刷りをみてもやっぱりわからないので、そういうものなのかもしれません。下地になってると推測できるのですが、どういう製版になってんの?どの程度の効果あるの?と是非とも聞いてみたい。下の手書きの数字は濃度計ではかった数値で、あくまでも目安。写真の最シャドウ部は1.90。

もう1パターンの試し刷り。ちょっと写真だとわかりづらいけど最初のパターンの5のグレーがシルバーに置き換わっています。当時はほぼ迷うことなく最初のモノクロパターンに決めたけど、こっちのシルバー入りパターンもいいな。(実際は刷りだしがもう一種あるはずだけど、持って帰ってなかった)

この余白ページを見てください。白い紙にブラックベタ塗りにシルバーが入っています。ベタ塗りは印刷がむずかしくて神経をつかうのです。印刷チームの仕事と機械メンテナスに敬意を。デザイン的に裁ち落としにするなら余白は黒のほうがカッコいっしょ、と無邪気にいってた自分がこわい。

シルバーのパート[Solarization(仮)]との調和、試し刷りで不採用となったシルバーパターンのヒストリーを写真の余白が担ってるとは。

ついでに、これがシュタイデル社の針あたり。これはパソコンで入れてるやつだけど、刷版に手書きの印刷会社も多くあって、先日、某写真家の写真集の刷りだしの紙を見ると、手書きの針あたりがザツすぎで、その印刷会社の品質管理のレベルが知れる。

 

シルバーのパート[Solarization(仮)]

こちらのパートはシルバーのみのやつを除いて4種のパターンを試し刷り(刷りだしがもう2種あるはずだけど、持って帰ってなかった)。4、5のシルバーを変えて印刷しているのがわかります。

あわせて Tokyo Art Book Fairの中島さんのレポートをご覧ください。

「Steidl Book Award Japan 2016」滞在制作レポート4

Steidl Book Award Japan

印刷を見学し、その翌日にシュタイデルさんと最終的な打ち合わせをして印刷パターンを決定したわけですが、おそらく[Solarization(仮)]のほうは、新たな刷りだしが用意してあったと思います。モノクロ2種、[Solarization(仮)]3種を提示され選びました。

日本に帰り、約2年後、突然シュタイデル社から連絡が入り、写真集を受け取ります。はい。違ってます。私は3種のうち一番シルバーの強い(ブラックの少ない)ものを選択しました。これは2番目か、または別のやつのような気がします。

こちらは、おそらくニスが赤みがかったものに変更されています。私が持ち込んだインクジェットプリントが赤みがかってて、そのイメージに寄せたのかなと推測してます。

ええ。いいんです。シュタイデルさんを尊敬し、全幅の信頼を置いていますから、コラボレーションといったらおこがましいですが、どんどんシュタイデルさんに手を入れて欲しいんです。ただ、他のディテールの変更と違って、ここは一言連絡欲しかったなと思ってます。まあ、最後の最後まで印刷を検討し、結果すばらしい写真集になってますので満足しています。

あと、製本で一枚リングのへんなところにいて収まりがわるいです。シュタイデル社ではスパイラルバインディングは普段やらないといってましたから、こういうことが起こるのかもしれません。不良品ではなく、こういうものだとおもってご了承願います。

 

シュタイデルさんは、うちには秘密はなにもない、オープンだ。ただし、手紙類にはきおつけてくれよ。と言っていました。その精神に倣って、写真集制作のプロセスをオープンにしますが、そのことと写真集の批評とは、また別の話だと信じています。印刷の勉強をしていると、印刷物が安い、という不満をよく聞きますが、いい印刷物なら高くてもいいという人が一人でも増えることを願って、とりあえず液晶画面からよろしくです。

 

 

Satoshi HiranoReconstruction. Shibuya, 2014–2018 – Steidl Book Award Japan

EnglishISBN 978-3-95829-408-01.

店頭販売があるのは下記です。パックされてるけど、店員さんにいうと中身をみられるかもしれません。

青山ブックセンター

代官山蔦屋書店

銀座 蔦屋書店(たぶん)

 

余裕のある方はこちらもどうぞ。私のも含まれています。たったの3万ユーロ!

Steidl Book Culture,2006-2020

Edited by Gerhard Steidl

English

ISBN 978-3-95829-769-2
1. Edition 01/2021

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