Steidl Book Award Japan 訪問記

Steidl Book Award Japan 訪問記

Steidl Book Award Japan 2016の受賞後、ドイツのゲッティンゲンにあるSteidl社に訪問する日程がなかなか決まらずに延び、今月(2018年8月)ようやく渡独しました。

当初は2017年春に渡独し、秋に出版予定だったので1年以上待ったのですが、聞けばこれでも短いほうだそうです。

http://tokyoartbookfair.com/2016/steidl-book-award-japan/

約1週間滞在のスケジュールで制作し、隣のゲストハウスに宿泊しました。基本的には他の写真家も同じスケジュールだそうです。

数々の名写真集が生まれた制作現場の理解が深まるよう、自分用の備忘録として簡単ながらレポートをします。

 

 

成田空港からフランクフルトへ、そこからICEで約2時間でゲッティンゲンへ。駅から徒歩十数分。

上の写真の真ん中の白い建物がゲストハウス。右隣の2錬がSteidl社。前の道と隣の隣が工事中で朝工事の音で目が覚めて(朝早い!)、工事の写真集の編集するという、なにの因果か

世界的な出版社にもかかわらず、注意深く探さない限り通りすぎるくらいひっそりとたたずむ。

Steidl社はバケーション中で、中にいたシュタイデルさん直々にゲストハウスの案内をしてもらう。

超多忙なシュタイデルさんのこの時間は、今思えば非常に貴重。

 

窓の開け方締め方、ひとつひとつ丁寧にレクチャーしてくれる。仕事中は威厳があり、すこし怖い印象があるがこの時はリラックスしたいたようにみえる。

今回、私が泊った部屋。Jim Dineの作品が飾られている。すべての部屋に違う作家のテーマがあり、このタイプが4部屋に最上階に2名1室のタイプがある。キッチンバストイレは隣の人と共有。Wifi完備。

 

Steidl社の中。

 

天から降りてくるアイデアを掴まえて、デザイン、プリントと下に降りていって本になるというコンセプトを説明するナディーンさん、表情が生き生きとしていて素敵。

自動の印刷機1台とは別に、この版をひとつひとつ手作業で変えていく1台の2台のみ。こちらは表紙の印刷などをするそう

シュタイデルさんは今もタイプライターを使っている。

     

 

シュタイデルスクール

展示用の大判プリンタの部屋。芸大のロバートフランク展のプリントもこちらで。今はラガーフェルドのをプリント中。

隣のギュンターグラスアーカイブス。元は古いコーヒーショップたっだのをシュタイデルが買って建て替えようとしたら、実はドイツでもかなり古いほうの建物で、遺跡なんかも発掘されて、壊すことをやめてアーカイブスにしてゲッティンゲン大学に寄贈したそう。この建物についてRobert PolidoriのTopographical Histories がある。

 

 

Steidl社での食事。

ランチはルディさんの料理が提供される。毎回3皿、とてもヘルシーで素材の味と食感を生かしたシンプルな味。Steidlから著作もだしていて最後に献本いただく。

シュタイデルさんと一度だけ一緒にランチ。サラダとデザートのみで数分で食べていた。炭酸水に大量のレモンを絞って入れてた。

朝夕は皆で食べにいく時以外はキッチンで自炊した。最初はひとりで外食してたけど疲れるので徒歩数分のスーパーで買い出し。ビールが安い。

 

写真集の制作。

基本的には上の階で待機。シュタイデルさんが全体的な監督で、実作業はデザイナーと細かく詰めていくようなイメージ。

私にはホルガさんが担当してくれて、ホルガさんは7年日本にいたことがあって日本語ペラペラ。

待機中はこれまでに刊行された本をみたり、雑談したり、音楽きいたり、作業したりとそれぞれすごす。

 

他のゲストの方、ゴードンパークスについての著作制作にきたワシントンのコーコラン美術館のフィリップ・ブルックマンさんにあれをみたほうがいい、これがいいなどとレコメンドされたり、南アフリカからきた方にプルーフ(簡易プリントした実物大のもの)をみせ、お互いの本の話をしたり、ポリドリファミリーにヘローしたりも。

   

 

テスト印刷。

今回のハイライト。この場にいた我々全員がショックをうけたと思う。見事な手さばきで次々と試行錯誤していく。

非塗工紙で240g/mの厚みの紙にモノクロ5色の見事なトーンで印刷されたものは、まるでアーカイバルピグメントプリントを束にしたよう。いや、それ以上。

さらにシルバーのインクを使った実験的なプリントも、こちらが想定していた以上に素晴らしいものに。

http://tokyoartbookfair.com/2016/sbaj-news/7074/

上記より引用

「印刷はレストランに例えることができる。一流のレストランでは野菜や魚、調味料など全て最高の素材を使っていて、それだけで素晴らしい料理が出来上がる。一方でスーパーで冷凍した素材を使ったりしていたら、料理は美味しくない。僕がやっていることも一流のレストランと同じで、全て最高の素材を使っているだけなんだ。あとは少しだけ経験値もあるかもしれないけれどね。」

「今回僕がやっていることは、1970年代の日本の印刷物へのオマージュだと考えている。当時の日本には優れた印刷技術があって美しい写真集が出版されていた。残念ながらその時代にあったグラビア印刷はなくなってしまい、印刷機も残っていない。僕はここでオフセット印刷機を使いながら日本のグラビア印刷にインスピレーションを受けた方法で、日本の紙文化から着想を受けた紙を用いて、日本の写真で写真集を作ろうと思っているんだ。」

「ゲルハルト曰く「1920年に実験されていて、当時はうまくいかなかった製法を使っているんだ。」とのこと、一般的には難しい非塗工紙への印刷が可能なのは紙とインクに隠された特徴があるようです。」

「ベースにシルバー2色で印刷した後に、黒を何色重ねるかの違いで、どんな表現になるのか試してみたのがこのパターンだ」と、4種類のテスト刷りが出来上がりました。「ソラリゼーションは暗室での科学的なアクシデントによって起こる現象だから、僕は印刷機でアクシデントを試してみたいと思ったんだ」

            

 

Steidl社での仕事を順調に終え、あとは写真集の形になったものを日本で確認し、OKなら本印刷に入るそう。

早ければ来月、遅くても年内には刊行予定とのこと。2000部。

終えてフランクフルトに戻るICEを待つ間、ゆっくりゲッティンゲンを散歩してグーテンベルクの展示をみたり、教会に入りバンドの練習中の音を聞きながらウトウトしたりしたのち、Steidl社に戻り土曜日でほとんどの人がいない社内でゆっくり過ごす。

最後シュタイデルさんにお別れのあいさつをして、映画『世界一美しい本を作る男〜シュタイデルとの旅〜』にもでてきた非売品の冊子をもらい帰る。

なにか夢でもみてるような体験だったと陳腐な表現力しかなくて恐縮だけれども、本当に素晴らしい経験だった。