Reconstruction. Shibuya, 2014–2018 – Steidl Book Award Japan
https://steidl.de/Books/Reconstruction-Shibuya-2014-2018-Steidl-Book-Award-Japan-0510253754.html
夜勤を終えて寝ずにドイツへ向かう道中に読み直そうと1冊だけ持った。『歩く、見る、待つ ペドロ・コスタ映画論講義』だ。この本の中には”学生の質問”として何年も前に参加した講義での私の質問も載っていて、もうこんなに時間がたつのか、そりゃ歳とるわけだという感慨とともにセザンヌの引用や、この日圧倒的に素晴らしかった記憶が蘇ってきて奮いたたせてくれるものがある。いま、また読み直そうと部屋をさがしたのだが、どうにも見当たらない。しかたない、では映画ストローブ=ユイレ『ルーブル美術館訪問』を見直すかと再生するも途中でエラーで止まってしまう。なんてこった。
2016年のSteidl Book Award Japanのレビューでシュタイデルさんはたしか私の作品をドイツ表現主義映画のようだと評していた。さすがである。写真を本格的にはじめたのが遅かったから真に影響をうけた写真家というのはいなく(もちろん尊敬する写真家はいる)、映画の影響が大きいのは、もうしかたないのだろう。そのためかどうか知らないが、どうも写真界からの評価が薄い。アートマーケットのトレンドにも即してない。SNS映えしそうなポップさもない。シネフィルでもない。自分は自分でしかない。ちっくしょう。
コンペにだしたダミーブックは実はたった2日で仕上げたものだ。最初の個展を終え、心身ともにクタクタの中、空いたのが2日だけだった。しかし、その突貫工事的なザツさがテーマに合っていて、かつ目立って評価されたのかもしれない。一番上である。受賞後は写真集の編集に全力で取り組んだ。生活が破綻するギリギリのところまで取り組んだ。いや破綻してたかもしれない。結果ダミーブックを大幅に変更したものをシュタイデルさんに提案した。いつくかは却下されたが、いくつかは受け入れてくれてブラッシュアップもしてくれた。ドイツに行き写真集の編集を終えて帰ってきてからの一月以上、腹の底からなにもやる気がおきなかった。こんな経験、はじめてだった。
100パーセント満足か、といえばやはりそんなことはない。コスト的に機械製本できる最大幅に縮小されたし、いくつかのディテールは変更された。なにより 出版が予定よりだいぶ遅れた。それにしたって、たいして知名度も実績もないド新人の私にこんな立派な写真集を出版してくれるのは世界にひとりだけだろう。最大の感謝と尊敬をしている。この出会いと、この舞台を用意してくれたすべての方々に本当に感謝している。
写真集に使われている紙はシュタイデルさん自ら開発に関わっていて、「俺のプロジェクトとシャネルにしか使わせない特別な紙なんだ」といっていた。非塗工紙で高価な原料である酸化チタンを含み、白色度をあげて印刷のりをよくしているとかなんとか、まあ、よくわからないが特別な紙のようだ。コート紙のような派手さはないが紙の繊維が視覚的に触覚的に感じられる。その紙に「モノクロプリントはおそらくうちが世界最高だろう」という自負のプリントがされているので、私の写真はともかく、STEIDL品質の実物を手に取って、目でみて、触って、インクの匂いを体感してほしい。
2020年、なんといってもコロナ禍が世界を変えた年、出版決定から約3年半後にようやく出版された。ワクチンは開発されないかもしれないし、東京オリンピックは開催されないかもしれないけれども、歩いて、見て、待ったし、12㎏のダイエットもした。もう誰の記憶にも残ってないだろう、いつか、どこかにあったかもしれないこの景色よ、永遠なれ。どうぞ、よろしくお願いします。
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Satoshi HiranoReconstruction. Shibuya, 2014–2018 – Steidl Book Award Japan
80 pages, 52 imagesSpiral binding in slipcase36.5 x 24 cm
EnglishISBN 978-3-95829-408-01. Edition 06/2020
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